ドイツ人にびっくり

呉橋真人

 桜咲く頃、旧東独の町、イエナとエアフルトの二つの大学からオーケストラと合唱団、140名がやってきた。私はボランティアお世話係。

 うち90名が宿泊している東京のホテルへ迎えに行った。ロビーにドイツ人があふれている。
「すみません。あなたたちのリーダーはどこにいますか?」
「リーダーはいません。」私の困惑した顔を見て、
「リーダーがいなくてはいけませんか?」
「いえ、いなくとも結構ですが、日本的ではありませんね。とにかく荷物はトラックに積み、バスに乗ってください」。
2台のバスに乗せてから、数えてみると86名だ。
「90名と聞いているのですが、全員で何人ですか?」「わかりません」
「4名不足と思います。どなたでしょう?」
「そう言えば、3人が京都へ行くと言っていました。」ホテルに確かめると全部屋チェックアウトしたとのこと。予定も20分過ぎたので出発、愛知県へ向かう。

 東名高速に入り、もう一つのホテルからのバスと合流。旧知の指揮者と会い、全員で何人なのか問う。「142名か141名だ」。「4名か5名足りない」「大丈夫だ。みな目的地を知っている」まるで気にとめない。
サービスエリアを出発にあたり、私が人数を数えているのが不思議らしい。ちなみに「皆、いますか?」と聞くと「だいたい。Almost」と答える。以降、人数を把握することはあきらめた。

 ドイツ人の理屈はこうだ。皆、自分の責任で行動しているので、管理監督される必要はない。乗り遅れても、迷ってもすべて本人の責任。トラブルになれば、自分で解決すべし。目から鱗だった。「個人主義のヨーロッパで最も日本に近い集団主義と規律のドイツ」のイメージは打ち砕かれた。それからの彼らとの5日間はとてもハピーで楽しいものとなった。時間になれば出発して良いのだ。

 おしまいに、面白かったことを二つ。

 スーパーでにんじんを買っているメンバーがいた。
「調理する場所もないのにどうするんですか?」
「かじるのだ。日本の食べ物はなんでも柔らかすぎる。私にはかじるものが必要だ」

 「日本語では、I love you. は私はあなたを愛していますというのか?」
「然り」。ここでドイツ人たち大笑い。
「本当にそんなに長いのだ。しょっちゅう使うことばなのに、形式的で重々しくてこっけいだ。」
「口語では、愛してる だけだ。」
その後ドイツ人たちの間では「愛してるー」が挨拶がわりの流行語になった。